休日に映画でも
何も予定のない休日にジャンマイケルと銀河は同じソファに腰掛け、よくある恋愛映画を見ていた。
ここは銀河がドイツに持っている自宅の一室。銀河が大会で優勝した時に手に入れた賞金でなんとなく作ったホームシアターの部屋に二人はいた。ホームシアターの機材とソファ、照明器具程度しかないシンプルな布張りの部屋だった。スクリーンに映画を投影しているので、部屋は薄暗かった。
物語はクライマックスに差し掛かり、ムードのある音楽が流れ出したところだった。しばらく会話のシーンが続いた後、画面の中で金髪女性とラテン系の黒髪男性が熱いキスを交わした。
「あ、やっとキスした」
二時間掛かってキスだけか、とつぶやき、銀河はスナック菓子を一口かじった。
「にしても、奥手な女の子だったね。銀河みたいに」
ジャンマイケルは微笑んで隣に座っている銀河を見た。そして手に持っていたコーラを一口飲む。発言を聞いた銀河は思わず口の中の菓子を噴出してしまいそうになった。
「な、何言ってんだよ」
銀河は口の周りの菓子のかすを払い、眉をしかめてジャンマイケルの方を見た。顔はりんごのように赤く色づいていた。ワンテンポ置いて、銀河はジャンマイケルから視線をそらした。
少年らしい年相応の可愛らしさを見せる銀河を見て、ジャンマイケルはコーラを目の前の机に置いて口角を上げて微笑んだ。
「だってそうじゃないかい? 銀河だって僕と付き合い始めてからなかなかキスしてくれなかったし」
「それは、その」
初恋だったし、どのタイミングですればいいかわからなかったし、と銀河は口の中でもごもごつぶやいた。
「いいんだよ、銀河のそういうところが好きだから」
ほら、こっち向いて、とジャンマイケルはそっぽを向いている銀河のほおに手を添えた。銀河は言われるがままにジャンマイケルの方へ顔を向けた。
ジャンマイケルは銀河の身体を支えるように触れ、怖がらせないように優しくゆっくり顔を近づけ、そのまま優しく唇を重ねた。銀河は何も拒むこともなく、それを受け入れた。
しばらく二人は唇からお互いの暖かさを感じあっていた。二人はぬくもりにうっとりするようにまぶたを閉じていた。
無意識に銀河はジャンマイケルの身体を強く抱きしめていた。今だけでも、もどかしくてたまらない自分の気持ちを全て分かってもらえる相手に頼ってしまおうと思った。
その時、ふいに周りから音が消える。流しっぱなしにしていた映画が終わったようだった。ホームシアターのある部屋なので、防音は完璧。外からの音はもともと聞こえていなかった。
無音の部屋で、一度衣擦れの音がした。ジャンマイケルが姿勢を直したからだ。
その音をきっかけにし、銀河は急に恥ずかしさでいっぱいになった。そして、いきなり顔を離し、ジャンマイケルと距離をとった。しかし決してソファの上からは降りなかった。
「何すんだよ……!」
銀河はさっきよりも顔を赤く染め、声を荒げた。そしてジャンマイケルに背中を向け、腕組みをした。
「こうでもしないと君とはキスできないからね」
それに、君もまんざらでもないって感じじゃなかったかい、とジャンマイケルはいつもと変わらない表情で言った。
「……ったく、アメリカ人ってやつは……」
真っ赤で眉をしかめた顔で振り向いた銀河は、しばらく下を向いて思案した後、勢いよくジャンマイケルに抱きついた。そして顔を隠すように、ジャンマイケルにしがみ付いて胸の中でうずくまった。
END
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