1.襲来



 仕事を終えマンションの自室のあるフロアについたかと思えば、ドアの前に不審者が座り込んでいた。
 有り得ない。このマンションは一階の玄関で暗証番号を入力しないとドアが開かない。それに、通路やエレベーターには監視カメラが設置されている。不審者がいたらすぐに見つかってしまうはずだ。
 まさかとは思うが、ストーカーの類いだろうか。
 だが、ここ最近で誰かに付けられた覚えは全くない。一応悪の組織のNo.2をやってるので、気配には敏感だ。つまり、目の前の人物は私が帰ってくる前からずっとそこにいたことになる。
 思わず逃げようと後ずさると、壁に背中が当たり物音を立ててしまった。かすかな音だったが、コンクリート製の廊下ではしっかり響いてしまう。非常にまずい。
 音を聞き付けた不審者は私のことを見つけて立ち上がり、こっちへ駆け寄ってきた。まるでゾンビのように重心の安定しない動きだった。
 私は驚きと恐怖のあまり足が動かなかった。逃げられない。
 そいつは私に倒れこむように抱きつくと、聞き覚えのある疲れはてた声を出した。
「笹本ー、一晩泊まらせてくれー」
 さっきまでは暗がりの中でよく見えなかったが、抱きつく程近くに寄ると目の前の人物の正体がよく分かった。
「何だ山田か…」
「山田じゃなくって、俺はジョニーだ!」
 何度言えばわかるんだ、と山田…じゃなくてジョニーは眉をひそめた。
 彼はジョニーこと山田一郎。天野河リュウセイを一方的にライバル視し、鍛練のために世界を旅する無職の男だ。
 ジョニーと私はデスバレーでの戦いの後から何となく仲が良くなっている。というよりも、ジョニーから一方的に頼られているだけのような気もする。
「今日はどうしたんだ」
 抱きついたままだったジョニーを引っ剥がし、ため息混じりに尋ねた。
「金なくてさ…、どっかに泊まるどころか食事にも辿りつけてないんだ」
 晩御飯も食ってないし、とジョニーは私に見せつけるかのようにしょんぼりとした顔でお腹に手を当てた。タイミングよくジョニーの腹の虫が鳴いた。
「……なら、これだけあれば充分だな」
 私は呆れつつ財布から千円札を取り出し、ジョニーに差し出す。しかし、ジョニーは受け取ろうともしなかった。
「どうしたんだ」
「…空腹で動く気がしねぇ」
 だから部屋に入れてくれ、とジョニーは頭を下げた。
 明らかにおかしい。ジョニーは世界を旅していたぐらいの人間だ。その程度のことではへこたれはずはない。そもそもよく私の部屋まで辿りつけたものだ。しかし、ここでほっといて倒れられてもあとあと困ることになるだろう。
 私は少し考え、ジョニーに宿と食事を提供することにした。
「一晩だけだぞ」
 私がそう言って仕方なくドアを開くと、ジョニーはすっくと立ち上がり私の部屋へと一目散に入り込んだ。
「お邪魔するぜー」
 こんちくしょう。やっぱり嘘か。私は思わずその場で頭をかかえた。



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