2.ぐだぐだと
「ごちそーさん」
ソファで隣に座っているジョニーが手を合わせて言う。満腹になったからか、玄関先で遭遇した時とは打って変わって満面の笑みを浮かべている。顔の血色もだいぶ良くなっていた。
「お粗末様」
私は苦笑いで返す。目の前のテーブルの上には空になった皿1つと飲みかけのビール2缶があった。
仕方がないのでジョニーには買い込んであったレトルトのカレーライスを出してやった。腹いせに盛り付ける際にスパイスを若干多目に入れてみたのだが、ジョニーは辛そうな素振りひとつしなかった。何故だ。
「やっぱり独身男性の作ったカレーは旨いな」
ジョニーがニヤリとして言った。そしてカレーの付いていた唇を一舐めする。
「独身はいらないだろう」
「いやいやそこがキモなんだ。彼女がいないから自炊能力だけは長けていく、と」
「山田、彼女いたからっていい気になるなよ」
思わず手を出しかけるが、まあまあ、とジョニーになだめられた。
「大丈夫、今度大輝さんが合コン開いてくれるってさ。しかも美人ボーガーばっかり!」
「何が大丈夫やら…。それにエイ……大輝は既婚者なのに何をやってるんだ」
しかも私に相談無しで。女好きなのは昔とまったく変わらない。本当にあの人は自由気ままに生きている。
「たまには伴侶以外の女とも交流したいんだろ」
複雑な表情の私を見て、ジョニーがけらけらと笑い、ビールを一口飲む。ジョニーの頬は赤く染まっていた。
「それもそうだけど」
「あ、男のメンバーは大輝さんと俺とXとロイド、それに笹本だぜ」
山田は指を一本一本折りながら名前を挙げていった。
「Xさんまで…」
あの人も確か彼女がいたはずなのだが。頭が痛くなってきた。私の周りは困った男ばかりだ。
「まあさ、あくまでも『笹本順一に彼女を作ろう合コン』だから大丈夫だよ、大丈夫」
あの人たちは多分飲みがメインだよ、とジョニーは笑いながら言った。
「その企画名は何なんだ」
「ロイドが言ってた」
「やっぱり真の首謀者はアイツか」
私は思わず頭をかかえた。ロイドはこういう企画を思いつきだけで行うことが多い。彼のお店の常連の子供たちもそれによく巻き込まれているようだ。
今日の会話だけで眉間に皺が深く刻み込まれた気がした。私は現実逃避の代わりに、残っていたビールを全部飲んでしまった。
これ以上この話題を続けていると私の胃が荒れかねないので、ふとよぎった疑問をジョニーにぶつけてみることにした。
「そうだ。お前、どうやって廊下まで入ってこれたんだ」
それなりに家賃の高いこのマンションのセキュリティは並ではない。怪しい人物がいたらすぐさま警備員のお縄にかかってしまうはずだ。
「顔パス」
「は?」
ジョニーは意外な答えを返してきた。私は思わず顔をしかめてしまう。
「一応オレもボーガーとしてはそれなりに名前通ってるしさー、警備員も顔見るだけで通してくれるわけ」
ジョニーはどうだ、という顔で私のことを見てきた。なんともイラっとする表情だ。鼻をつまみたくなる。
「いくらなんでも、そんなはずはないだろう」
私は苦笑いで返す。
ジョニーがボーガーとして名前が通ってるとしても、一応国際手配されている身のはずだ。もしも警備員に姿を見られたらすぐさま通報されてしまうだろう。
「それが、そんなはずがあるんだよ」
「嘘だろ」
「うん」
「そうか……あ?」
ジョニーが何を言ったのか理解できなかった。
「ちょっと必殺技でちょちょいとね」
警備員ごと処分してしまったということらしい。そういえば、入り口の近くで焦げた臭いがしていた。ジョニーの必殺技が原因だったとは思わなかった。
「のちのち色々と言われたり請求されたりするのは私なんだぞ、山田ァ!」
私は色々と我慢しきれずにジョニーにヘッドロックをかました。ジョニーは苦しそうに右手で私の腕を叩く。しかし私は決して手を緩めなかった。
「いててててて。ま、まあ、そこはオレに免じて許してくれよー」
「絶対にやだ!」
体をゆすって脱出しようと試みるジョニーに対して、私はヘッドロックの力を強めた。大輝と一緒に鍛えた筋肉は伊達じゃない。
「ちょ……ギブ! ギブだってば!」
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