2.車にて、独りで



 私は一人、コンビニの駐車場に置いた車の中で缶コーヒーを飲んでいた。鉄交じりの甘さが疲れた体に沁み込んでいく。
 仕事が終えて一息を付き、残り時間こそ短いながらもクリスマスを楽しむ気分にもなってきた。しかし、仲の良い同僚や後輩たちはデートやパーティだとかで都合のいい者は居なかった。人望が無いわけではない、ただタイミングが悪かっただけなんだ、と自分を慰めた。
 大輝には可愛いお子さんが居るので、真っ先に帰ってしまった。当たり前といえば当たり前だ。
 やっぱり今年も一人か、とため息をつくと携帯から着信メロディが鳴り響いた。携帯を見るとロイドからのメールだ。嫌な予感しかしなかったが、メールを開いた。
『さすが順一、絵画センスは最高ですね! リュウセイくんたちと腹を抱えて感動しました。PS.子供たちと飾りつけたクリスマスツリーの画像送ります』
 メールには私の身長程ありそうな大きいツリーの画像が添付されていた。背景からして、この馬鹿でかい物はどうやらロイドの店の中に置いてあるらしい。様々な形のオーナメントやライトで飾り付けされていて、とても綺麗だった。改めてクリスマスなんだと実感しつつも、一人ぼっちの寂しさが身に沁みた。
 しかし、やっぱり大輝はロイドにあのクリスマスツリーの絵を送っていたようだ。そんな大輝もひどいが、わざわざ子供たちにあの絵を晒すだなんてロイドはもっとひどい。腹を抱えて感動したと書かれても、どう考えても大笑いしたとしか取れない。ただでさえカブトボーグでは実力的に下に見られていそうなのに、この件のせいで余計に子供たちから舐められてしまっただろう。
 笑えばいいのか怒ればいいのか分からずに私は頭を抱えた。
 するとまた携帯が鳴り出した。まだ返信を送った覚えは無いのだが。
 携帯の画面には大輝の名前が表示されていた。それに電話の着信のようだ。私は慌てて電話を取った。
「もしもし、大輝?」
「あー、すぐに出てくれて良かった。急な話で何だが、ロイドの店でパーティやってるから来ないか?」
「え、いいんですか? 今日は子供たちとのパーティじゃ…」
「笹本、何時だと思ってるんだ…もう子供は寝る時間になってるぞ」
 すると電話先でごそごそと物音と大輝と誰かの声がした。
「子供タチハ帰シマシタノデ、コレカラハ大人ノ時間デースヨ」
 ロイドの声だ。きっと大輝から携帯を取り上げたんだろう。電話口からかすかに大輝が文句を言っているのが聞こえる。
「ト、イウ訳デ今スグ私ノ店ニ来テクダサーイ!」
 一方的にまくし立てられて通話は切られてしまった。暫く呆然としていたが、私は車をロイドの店に向けて運転し始めた。ついでにムードを盛り上げる為、FMラジオを付けてみた。聞き覚えのあるクリスマスナンバーが流れ出した。



←BACK    NEXT→